パニック障害の治療をしていた時代の出来事です。N院長先生なら「もはや懐かしいですね」とおっしゃるでしょう。
パニック障害の人が「電車に乗れない」と訴えることがあります。私は鉄道マニアということもあり、森田療法をしていたこともあり、電車に乗るのは、初めからけっこうできました。
それでも、車中で動悸がして、冷や汗ダラダラ、顔面蒼白、吐き気にめまい、といった症状が出ることがありました。
あるとき「あなた、気分が悪いの?」と席を譲ってくれた40代くらいの女性がいました。そのお気持ちが嬉しく、その方が降車する際には、立ち上がって御礼を申し上げました。車中でどなたかが困っていたら、私もその女性のように振舞いたいと思ったものです。
それからずっと時間がたち、自宅から2駅はなれたところで、乗換えの車両を待っていると、60代くらいの女性に「あの、私のこと、わかりますか?」と聞かれました。
わかるわけないだろー。
とは言えないので、「大変、失礼ですが・・・?」とお聞きすると、「私は心臓病で、気分が悪くなったとき、タクシー乗り場まで付き添ってくださった・・・」まで聞いて、思い出しました。その女性が「少し気分が良くなったので、今のうちにタクシーで帰ります」とおっしゃったので、一緒に行ったのでした。
それは数ヵ月も前のことでしたし、次の電車に乗るときには、パニック障害との個人的バトルが待っているわけですから、記憶があやふやになっていました。
とはいえ、私がいただいた親切が、何かの形でお返しできたのなら、嬉しいです。
一方で、「親切にした」という記憶を、いつまでもとどめておくことは「恩を着せる」ということにつながります。誰かからいただいたご恩は、誰かにつなげる。そして、忘れてしまえば良いのだと、感じた出来事でした。
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