新しい家の周りは、細い道が多い。
だから、幅の広い道に、少しでも早く出られるようなルートを選んで歩く。
暗い時間帯になったら、多少遠回りでも街灯の多い道を選ぶ。
さて、今日は昼間のもっとも暑い時間帯に、川沿いの道を歩いていた。
幅の広い道のずっとずっと向こうに連なる山々が見えて、道も川も電線も、色々なものが山へ吸い込まれていくようだった。
ふと「もう、帰ることはできないんだな」という気がした。
今、振り返ったら、自分の歩いてきた方向には道がなく、自分の前にだけ道があって、進むしかなくなっているような気分になったのだ。
私は引っ越しをしたその日の夜、ある人に手紙を書いた。
その時、
「物理的にどこに住んでいようとも、この人と会えることには、これからも変わりはない」
という思いが、どれほど自分を支えてくれているか、実感することができた。
今までお互いがどこで働き、どこに出張をしているときでも、
「この日には会いましょう」
という約束を時々交わしては、守り続けてきたから、ということが大きい。
「もう帰れないんだな」という思いと、「この人には、これからも会える」という思い。
矛盾なく存在するのが、なんだかおかしい。
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