耳鼻科のK先生のところへ行った。廊下で座っていたら、なんだか眠くなって、意識がぼーっとしてしまった。
やがてK先生に呼ばれる。
「おはよう」
「おはようございます」
「どうなりました?」
「だいぶ良くなりました」
「しゃべり方が……ははははは(笑)」
「どうしました(笑)?」
「普通になってる(笑)」
「なんで、ウケるんですか?」
「前、カタコトの外国人みたいやったもんな」
「はい」
「あの、Y先生が下位脳神経って言葉使われたんですよ」
「あぁ、うんそれ」
「それで、ちょうど放送大学の授業でやってたとこやったのに、下位脳神経ってなんやったかなってなって、舌咽神経、迷走神経、副神経……」
「……さらに下やったら……」
「舌下神経」
「そう」
「で、今日は、どうしたらいいかな?」
「あの、ステロイドはもうやめていいんですか?」
「うん。ステロイド止め、と」
「イソバイド欲しい」
「イソバイド、ね」
「次、予約とかって入ってる?」
「いえ」
「じゃあ、イソバイドが切れるころやな」
「また、みっともなくなってるかも」
「なんで? 顔、動くようになったやん?」
「他に、なんか検査とか、手術とか受けてるかも」
「あぁ。でも、顔と違って見せる部位じゃないやん?」
「うん」
「……っていうか、その場合はホームページに画像載せたらあかんで(笑)」
「ははははは(笑)」
「ははははは(笑)。ハント症候群はいいねんけど、普段隠しているような部位を、あえて載せると、変な意味に受け取る人もいるからさ」
「はい」
今日もありがとうございました。
私は耳のホームページを作ることになったとき、K先生や患者さんの役に立ちたいと思った。一つか二つは、実際に役に立てたと思える出来事もあった。
私にできることは、誰かを教え諭すようなことではなく、逆に誰かの話しや気持ちを一方的に受け止めるようなことでもなく、ただ「流れをスムーズにする」ことだと思ってきた。
主治医の先生に言えなくて困っていることがあるなら、私に話してくださることで「どう言えば、主治医の先生に伝わるのか?」を考えていただく機会としてもらえたらと思った。患者さんと先生、患者さんと情報の流れがスムーズにいくことが大事だろう。
また「先生や看護師さんが言った言葉、他の患者さんから聞かされた言葉にショックを受けてしまった」とか、「生活上の悩みがあって、生活のリズムが滞ってしまっている」という人がいるなら、私が一緒に考えることで、流れやリズムを取り戻すことができるよう、お手伝いしたいと思った。
私にできることはそんなに多くないと、自覚していなければならなかった。「多くのことができる」と思うようになったら、私は自分を正しいと思い込み、間違いに気づけなくなってしまうだろうから。
でも、私は弱い人間で、自分が新しい病気をしたり、仕事やプライベートで何かあったり、頂いたメッセージが心をえぐるようなものであったりした場合、できることは「そんなに多くない」どころか、「ほとんどない」になってしまう。
K先生の役に立つどころか、私がK先生の荷物になることも、多々あったのだ。
「できることは、もうほとんどない」という事実を、自分でも認め、受け入れるほうがいいのではないかなと、思うことがある。
「一つか、二つは役に立てたことがあった」ということを良き思い出として。
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