「あの、実はT先生が転勤してこられる直前なんですけど、ある薬物にアレルギーを起こしてしまったことがあるんですよ」
「はい」
「はじめに呼吸困難を感じたとき、自分で過換気症候群やと思ったんで、様子を見てしまったんです。病院、正月休みやったし。そのとき、咽頭浮腫や声帯浮腫で声が出せなくなって初めて、なんかおかしいんちゃうかって思ったんです」
「ほぉお。そうやったんか」
「救急外来に行っても、まだ、事態の重要さってわからんかって。それでその後、成人喘息になったんですよ」
「そのアレルギーがきっかけになってしまったんやな?」
「そうなの。そうなってもまだ『ちょっとまって、ちょっとまって』て気持ちがずっとあって。だけど、声帯浮腫で声が出んかったから、『私が悪かったんですか?』という簡単な表現でしかしゃべられへんし、細かいニュアンスが説明できへんかったんです」
「はぁあ、それは、医師としては『そんなことないよ』って言わざるを得ないなぁ」
「それからも長い間、過換気症候群じゃなかったの? 心の不調が原因じゃないの? 本当に体の病気なの?って思ったんですよ」
「うん」
「自分では、本当に喘息の息苦しさと、パニック障害とか過換気症候群だった場合と区別が付かないんです」
「それで、先生方が手を尽くしてくださってるのを見ていると、いつの間にか『こんなことになったのは、お前が不注意だったからだ』って、誰かに言ってもらったほうが気が楽になるのにって、何度も思ったんです」
「え、それはちょっと、理解できんとこもあるけど・・・」
「自分では、『今は心因とかあって、心が混乱していて、こんなひどい症状になっているけど、心が落ち着けば治るような気がするから、そんな大騒ぎしないで』って思いながら、先生方が体の病気として治療をしてくださるのを、呆然と見ているということがありました」
「なるほど、なんかわかってきた」
「それと、前にも使っていてアレルギーなんてなかった薬やのに、二度目はアレルギーを起こしたというのが不思議で」
「ほんまやなぁ。でも、無いことは無いですよ。いつのタイミングでアレルギーが起こるか、容態が急変するかっていうのは、誰にも分からんことやから」
「その二回の違いは何やったかっていうと、なんか自分の側に理由があったんじゃないか、自分が悪かったんじゃないかって思うんですよ。なんか、それこそ得意の(笑)心因とか。なんか、自分の側に原因があったんじゃないかって思うんですその思いがずーっとおなかの中に、今も残ってます」
「あぁ・・・ふゆうさんの得意の心因性やなぁ」
「今は私は『耳が悪い』って言われてるけど、これもそのときと同じ『あなたが不注意だったんだ。だからこんなことになったんだ』って誰かに責められたほうが楽やのに、って思ってしまうこともあります」
「だから、T先生の言うことは、もちろん冗談とはわかってるけど、調子を合わせてもらえるだけでも、『あなたの側に理由があるんじゃないか』と言ってもらえると、楽になるんです」
「僕の個人的な意見やねんけど、『心因性』って言葉は、便利に使ってしまってるっていう面もあると思うねん。人によって何を悩んでいるか、何がストレスかっていうのは違うやろ? それをひとくくりにして『心因性』って表現してしまってる」
「はい」
「それに、ふゆうさんのケースのような、『前は無事だったのに、今回はアレルギーを起こした』という時に、絶対に心因が関係あるといった統計データがあるわけでもないねん」
「はい」
「そういうときに、心因性のものですかねぇっていうのは、使いやすい言葉ではあるねんな」
「はい」
「僕は、心因性という言葉を喜んで受け入れてもらえる、と思って言ったわけじゃないねん。ふゆうさんが、アレルギーのこととか、あと耳のこととかを、そういう風に考えてたということも、今はじめて知ったからな」
「はい」
「ただ、ふゆうさんのような受け止め方もあるんやな、ということは勉強になりました」
「いえ、あの、こちらこそ、ありがとうございます」
【注意】すべての症状を「心因性だ」とする決め付けは危険です。精神的に本当に崩壊しているなら、精神科での治療を受けましょう【注意】[0回]
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