外科のS先生のところへ行った。
「おはようございます」
「はい、おはよう。調子はどうですか?」
T先生がノートに書いてくれた部分を見せる。
「……(乳房は)今も、痛い?」
「はい」
「両方痛い? 左だけ?」
「左だけ」
「痛みというのは、毎日変わらないんかな? リズムみたいなものはある?」
「あの、排卵を起こすことができるようになったのが、昨年12月だったので、その頃から痛み出しました。で、基礎体温表と照らし合わせて、排卵の直後から痛みのピークが来るのが分かって、痛み止めとかを、何とか使うようにしてるんやけど」
「痛み止めは、何を?」
「ボルタレンSRを使っててんけど、ボルタレンサポの50mgを持ってて、ひどいときは使ってます。冷や汗が出たり吐気がしたり、脳貧血みたいになったりすることがあって、T先生が『痛みに対する反射やと思うから、痛みを和らげるしかない』って言わはって」
「うん」
「で、ある時、胃がチリチリ痛んできたなぁと思ってたら、夜中に猛烈な吐き気がしたことがあって」
「うん」
「とりあえず手持ちのネキシウムを飲んで、あとで近所の先生にフェルターゼとかもらって、凌ぎました」
「そうかぁ。大変やったなぁ。ちょっと横になってな」
「はい」
触診と、細胞診ができるかチェック。
「今は、分泌物が採れない」
「そうですか」
「月経はいつ?」
「あの、今が6日目」
「あぁあああ。ピーク過ぎた感じやな」
「はい(笑)」
「さて、今後どうするかやけど。基本的にT先生の言うとおり、痛みは痛み止めを使って止めるほうがいい」
「はい。T先生だったと思うけど、迷走神経反射が起こったときに、転倒したとか、転落したということが一番怖いからって」
「うん。そうやな。できるだけ起こさんようにするには、黄体期の短期間をボルタレンサポとかで乗り切っていくしかない」
「はい。あの吐気とかは、ナウゼリンとか使っていいの?」
「そうやな。ガスターとかサイトテックは出してるからな」
「あの、どういう状況になったら、心配すればいいの?」
「は?」
「今は、乳腺症の痛みだってことを感じるけれど、たとえば『痛みがなくて血乳が出てきた』とかの状態だったら、心配すればいいの?」
「今は、こうなってしまったら、症状がどうだから心配とか、安心ということは言えない」
「え? そうなの?」
「乳腺症でも、痛みがなかったこともあったやろ? 逆に、悪性の何かだったとしても、痛みがないとは言い切れない。だから、症状は症状で対処しつつ、定期的にエコーなり細胞診で診ていくしかないと思う。次回はエコーを先に入れるんで」
「はい」
「朝いちばんでいい?」
「あ、あの次回、事務的な手続きを先にせんといけないから、朝いちばんだと厳しい」
「よし、ちょっと遅めにするわ」
「で、あの、心電図と甲状腺とかの結果を」
「……正常な感じやな?」
「はい。あの、既に伝わってる部分はあると思うけど、実は入院してた時に、行けなかった取材があって」
「うん」
「で、あとからP先生のお名前を……」
「あぁあああ」
「そのとき、取材に行っていたら、後から書類を見ていないとは思うから、縁って不思議やなって思いました」
「ホンマやなぁ」
「でも、P先生はあまり口数が多くないとか教えられてたけど、それって何やったんですかね(笑)?」
「思うに、P先生のツボやったっていうのは、あると思うねん。それだけ力を入れてることを、知ってくれてる誰かがいるっていうことは、嬉しかったと思う」
「そうかな?」
「ただPさんが、そんなに話すっていうのは、俺からしたらちょっと意外かなぁ」
「え、でも、最初からわりと話はしてくれてはりましたよ」
「そりゃあ、最初は検査の説明とかせんとあかんやろ(笑)?」
「はい」
「でも、今みたいな話を自分からするほうやとは、思えへんかったなぁ」
「あの、T先生と会えたんですよね」
「うん。3時間くらい居ったなぁ」
「3時間!? そんなに愛し合ったんですか?」
「うん。3時間は居ったと思う」
「T先生が『俺だけ、S先生やM先生に会えてないのは不公平だ』って言いまくってたけど、今は私だけ、M先生に会えてない」
「ははははは(笑)。Mに会ったらどうしたいん?」
「抱き着きたい」
「あのな、期待せんと待ってな(電話をかける)」
「え? ちょっと待って。ちょっと待って! マジ? ストップ、ストップ!」
というわけで、M先生と会えることになった。
M先生は髪がちょっと伸びていた。そして相変わらず大きかった。
「久しぶりやな」
「こ、こんにちは!」
「どうや、調子?」
「あ、あの、おかげさまで、あの。忙しいんですよね?」
「うん、まぁな。この前、手紙くれたやろ?」
「はい」
「喧嘩するなとは言わんけどな、あんまり引っ張りやな。全部言うことを聞けってわけじゃないけど」
「はい」
「早く和解しなあかんで(笑)」
「ありがとうございます」
「あの、T先生と会えたって」
「うん」
「3人で愛し合ってたって」
「ふっ……ふっ……まぁ、楽しかったよ(笑)」
M先生、ありがとう。手紙のこともおぼえててくれて、ありがとう。
そして、チャンスを作ってくれたS先生、ありがとう。
ちょっとずれてる感謝かもしれないけど、3人で会ってくれてありがとう。
そんなに楽しかったんだってことを聞いて、願い続けてきてよかったって、心から思えました。
本当にありがとう。
[0回]