婦人科のT先生のところへ行った。
「こんにちは」
「はい、こんにちは」
基礎体温表を見せる。
「……あれ? ややこしいな」
「途中、不正出血があって」
「あ、これは不正出血か。じゃあ、月経の時期はこのときで、不正出血がこの時期とすれば……安定してるやん(笑)」
「はい、さっき言ったことと逆ですね(笑)」
「はははは」
「で、痛みはどうや?」
「不正出血の時期は、下腹がとても痛んで」
「下腹じゃなくて、乳房! 腹痛はもうわかってるから(笑)」
「あ、痛かったときはあります」
「乳汁は止まってるん?」
「いえ、あの止まらなくて、皮膚科の先生にも軟膏とかもらってます」
「そうかぁ。残念やなぁ」
「愛情が多いからです!」
「はい?」
「プロラクチンは、愛情がいっぱい……」
「それは、わが子に授乳している場合に言われる話やな(笑)」
「あの」
「ん?」
「カバサールって今以上には増やせないのですか?」
「……あのね、増やすことはできるねん。ただ、来週エコーをするんよな?」
「はい」
「僕としては、その結果を知りたいんよ。カバサールを増やせばよくなるのか、それとも乳房の側になんかの理由があるのか」
「はい」
「それで、乳房に問題がないならば、カバサールを増やすということも考えていこうかと思う」
「はい」
「ノート、書いとこうかな」
「ふゆうはいい女ですって書くの?」
「うん、書くだけなら……え? これPさん?」
「はい」
「え? 嘘やろ? Pさん、これ書いたん?」
「はい」
「いったい、どうしたらあのPさんに書かせることができるんや(笑)。確かにいい女かも知れん」
「先、処方箋書くわ」
「はい」
「欲しい薬は? 今まで処方したことのある薬の中で、欲しい薬は(笑)?」
「あう、先手を打たれましたね。シ○ナ○イ○って言いたかったんやけど」
「何それ?」
「抗酒剤」
「あぁああ。ふゆうさんのほうが、いろんな薬知ってるからなぁ(笑)」
「あの」
「前、ちょっと思ったんですけど」
「何?」
「手帳とか、携帯電話とかは、たとえ家族間であっても、勝手に見ないようにするということは、大人同士だったら守らないといけないですよね」
「うん。ていうか『子どもの日記を親が勝手に見る』というのでも、俺はあかんと思うけどな」
「あ、そうですね。見られる側としても、そういうものは『見られたくないなら、見られないように置いとく』っていう形で、気をつけるじゃないですか」
「はい」
「でも、薬を飲んでいる場合だと、薬って普通は素人が見てもわからへんから、けっこう無造作に扱ってしまうし」
「あぁ、そうやな」
「でも、私の弟が薬剤師で『あれ、今までと違うな』って気付かれることがあって」
「うん。あぁ、だいたい言いたいことが分かってきた」
「ありがとうございます」
「あのな、それの難しいところって『見られる側の性格にもよる』ってことかなぁ、と思うねん」
「ん? え?」
「携帯や手帳っていうのは、見られても平気っていう人とか、あるいはなんか秘密がばれても『ばれましたね、てへへ(笑)』で済むキャラの人とかいるやん」
「はい、そうですね」
「で、薬の内容っていうのは、『身内が心配して聞いてくれた』というのと、『専門家にどうなってるんだと詰問された』というのとで、受け取り方が違うと思うねん。弟さんは、別に詰問したつもりはないんやろうけど」
「はい、それは完全にないですね」
「でも『お前の秘密を知ってるぞ』みたいに迫られたと感じる可能性もあるし」
「あの、自分が言わなさすぎて」
「うん」
「言ってくれない→知らなくて気持ち悪いし心配になる→イライラして強い口調になるっていう流れはあったかなと」
「なるほどな。まぁでも『改まって現状報告する機会がない』っていうのも、分かるで」
「ですよね!」
「うん。入院するとかになったら別やけど、日常生活のことをいちいち報告しないのと同じやなぁ」
「あの、某精神科の先生が書かれた本で」
「はい」
「かつて某首相が一回退任されたときのことが書かれていて」
「うん」
「その時、テレビとかで映し出される様子を見ているだけでも、○○っていう病気やろなって分かる状態だったから、側近の人とか、主治医の方とかは本当の情報をつかんでいながら、伏せている状態やったんやろうみたいに書かれてたんですよ」
「某首相は公人やからなぁ。どこまでを伏せてもらえるかというと、難しいなぁ」
「そうですね」
「さて、書けた」
「ありがとうございます」
「S先生によろしく言っておいてな」
「はい! あ、T先生は」
「ん?」
「P先生にちゃんと『愛してる』って言って!」
「ふ……ふ……。まぁ、P先生のことは好きやよ」
「愛は、ちゃんと言わなきゃだめだよ」
「……ふ……ふ……、言えば納得する?」
「え? そりゃあ」
「じゃあ、言っとくわ。『ふゆうさんに、愛してるって言えと言われた』って」
「ははははは(笑)」
今日はカバサール、ロペミンをいただいて帰宅する。
薬局でお薬も頂き、バス停の方へ向かって歩き出したとき、P先生とばったり会う。
P先生は電話中だったので、私とは話ができなかったけど、でも頭を下げることはできた。
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