T先生のところへ行った。
挨拶部分は省略。
「がん検診は、クラスIIで問題なかった」
「ありがとうございます。結果を撮ってもいいですか?」
「うん、いいよ。あ、それより、コピーあげるわ」
看護師さんがコピーしてくださる。
基礎体温表を渡す。
「一個だけ、相談したいことができました」
「うん。わかった。まず基礎体温やけど、とても良い波形ですね」
「はい!」
排卵日の推定と、体調全体の変化を話す。
「聞きたいねんけど」
「はい」
「S先生は、カバサールのことは否定してなかった?」
「してはいないです」
「乳汁は止まってる?」
「ずっと止まってたんですけど、あの、前にS先生のところへ行った日の直前に、いきなり血が出てきたんですよ」
「ほぉ」
「で、S先生は、痛みもはっきりあるし、大丈夫やろって」
「痛みは、どう対処するの?」
「ボルタレンSRとかで」
「普段から、飲んでるからな」
「で、相談とは?」
「あの、今月入ってから、いきなり『冷えのぼせ』がきつくなった時期があって」
「はい」
「冷えもそうだけど、動悸をすごく感じたので」
「はい」
「循環器の先生に話したほうがいいのかなって、迷うほどだったんです」
「うん」
「それで、だんだん、汗もいっぱい出るようになってきたんです。冷えのぼせだったら、病院に行くことも大事だけど、自分で運動するとかのことも必要だから」
「それで、楽になるか?」
「あの、ちょっと楽になったような気もしていたころに、めまいがしていることに気付いて」
「めまい? メニエール病?」
「というよりBPPVだと思う」
「ほぉ」
「で、逆に考えれば、めまいってことに自分が気付いてないまま、めまいを起こしていたことがあるのかなって」
「あのね、冷えのぼせっていうのは、婦人科で扱うとしたら、女性ホルモンが減少して、更年期障害が出ているという形が多い」
「はい」
「で、今のふゆうさんには、あまり考えられない」
「そうですか?」
「うん。だって、基礎体温表の波形としては、この2か月すごい良いから」
「はい」
「むしろ、女性ホルモンがちゃんと分泌されているということ」
「はい」
「ただ、さっきふゆうさんが言ってたけど『めまいがする』ということがあったんよね? めまいが原因で、自律神経系の乱れが起こることはある。知ってるよな?」
「はい」
「それやったら、今日、メリスロンをもらったことで、めまいが治まっていけば、楽になるかもしれない」
「はい」
「他の先生に相談する場合でも、少なくとも婦人科の問題は否定されてますっていう風に言ってな」
「はい。ありがとうございます」
「で、S先生はどうしてた?」
「あの」
「S先生と話してたけど、T先生は閉経させるタイミングって、いつだと思いますか?」
「はい!?」
「閉経はいつか来ますよね」
「30代が何言ってるの(笑)?」
「いえ、あの、今まさに不妊で悩んでるとかだったら、閉経しては困るから」
「不妊とか別にして、その年齢で閉経したら困るやん」
「そうなんですけど、じゃあ、いつだったら困らなくなる?」
「僕としては45歳かなと思ってる。あと、8年か」
「え、そんなに治療受けてて、いいんですか?」
「この基礎体温表を見てて、辞める理由がないやろ?」
「どうしたん? なんでS先生とそういう話になったん?」
「あの『今、まさに子供が欲しいんです』とかの人が、治療を受けるとしたら意味があるけど、私のような場合に、先生の時間や労力を割いてもらっていいのかな……」
「いいんです。っていうか、どうしたん? 疲れてきた?」
「疲れたってことじゃないんですけど」
今日の診察の途中で、T先生は驚くような行動に出た。
S先生がノートに書いてくれたメッセージを、初めてT先生へ届けた時、そこには
「一度お会いしたいです」
って書かれていた。
それなのに、今日のような日が来るとは、人生って何が起こるかわからないと思った。
T先生とS先生との話を色々考えていたら、今の自分が越えなければいけない何かを、少し理解できた気がする。
それは、「一度お会い……」のメッセージを書いていただいた時期には、越えられたこと・保留にしたこと・後退したことなどが混じっているけれど、少なくとも「自分はこういう種類の壁にぶつかりやすいんだな」っていうことだけは、理解できたと思う。
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